95 縹地大唐花文錦 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

95 縹地大唐花文錦(はなだじだいはらはなもんにしき)(南倉103)
縹地に濃染・紫・白・黄・緑・紅・薄紅・赤などを用いて暈繝彩色しており、主文は、斧のような形を四つ×形に配し二重の連珠で囲んだ花心に八枚の刳形の二重になった花弁を付け、そ の外側に八枚の花弁が覗いている蓮花風花文を中心に置き、連珠で飾った八稜形で囲んでいる。八稜形の各頂点に花弁が四重で底を蕨手状の対葉形が包んでいる八個の刳形の側面花を配した複合の大唐花の外周を三葉形を飾った九弁の花文を中心に置き、花床の周りに翻って裏を見せる十枚の二重の葉形で包まれた三葉形を飾る花弁をつけた八個の斜向した蓮花風花文で囲んだものである。副文は、側面花と葉を湾曲する蔓に対称的に数多くつけた宝相華唐草風の草花文を十字形に並べ全体を菱形にした文様である。非常に豪華な文様で、まさに正倉院の錦中の白眉と言えよう。一点の琵琶袋の残片しか伝存していない。複様三枚綾組織の緯錦である。
日経新聞社「正倉院の文様」より引用
95 縹地大唐花文錦 より
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