68 黄楊木金銀絵箱 第30号 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

68 黄楊木金銀絵箱 第30号(つげのききんぎんえのはこ)(中倉154)
黄楊木製の印籠蓋造の箱に金銀泥で花鳥文を描く。蓋表はほぼ六稜形に作られた複合花葉文を中央に表し、四隅に複合花葉を覗かせる。鳥・蝶はその間に配されて、全体では四つ割対称の構成となっている。素地に描かれているため、銀は変色にもかかわらず独特の美しい色調を呈して図様も明瞭に認められる。特に雀様の小禽が連なって曳く綬や花枝は、この類のものの中でも最も美しく印象深いものである。四側面も対称的な構成のもとに花葉文を配し、鳥・蝶をあしらう。稜には象牙を嵌め、黒檀の押縁を貼り、銀絵の連珠、金銀絵の花文を回らす。黄楊木材の床脚にも金絵の花文、柿材の畳摺にも金銀絵の花文を施す。底裏に「東塔」の墨書き銘がある。淡紅色麻紙の折り立てのしんを入れる。
全高9.35cm
日経新聞社「正倉院の文様」より引用
68 黄楊木金銀絵箱 第30号 より
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