72 平螺鈿背円鏡 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

72 平螺鈿背円鏡 (へいらでんはいのえんきょう) 第二号 (南倉70)
螺鈿飾りの円鈕の周囲に捩蕊様の座、その周りに蕾状の螺鈿をあたかも巡珠文様に回らし、六個の花文と蕾文を交互に派生させ、さらに連珠文を回らす。そこから大きな六個の花文を覗かせ、その間にさらに大きく咲いた花文を表し、その花文間に小ぶりの花文を咲かせている。大まかにいえば、花心の鈕座から、六個、六個の花を咲かせ、放射状 に展開していった図様である。花心は白線で彩色した上に、琥珀の内側に花文を彫り、金泥彩色したものを嵌めた伏彩色である。一部の花心に琥珀に代わって瑇瑁を用いて変化をつけている。地にトルコ石の砕石片を埋めるのは他と同じである。北倉の螺鈿鏡七面より一まわり大ぶりで院蔵の螺鈿鏡のなかでは最大の大きさである。
径39.3cm
日経新聞社「正倉院の文様」より引用
72 平螺鈿背円鏡 より
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