61 蜜陀彩絵唐花文小櫃 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

61 蜜陀彩絵唐花文小櫃(みっださいえにんどうからくさもんこびつ)(中倉143)
木製黒漆塗り、長方形、印籠蓋造、床脚付きの櫃である。蓋表に僅かに面を取る。蓋身に押し縁を廻らす。長側の一方にはさす金具、他方には肘金具と壺金具を各一双つける。金具はすべて鉄製黒漆塗り。さすは遺存しない。
装飾としては、赤と白の色料を用いて、外面に種々の文様が描かれている。
蓋表には、蓮の実風の花文を中心に二羽の鳳凰と二羽の怪鳥を表わし、さらに、その外周に蓮花蓮葉を交えた忍冬文を配する。鳳凰も気を吐く怪鳥も、共に両肢を大きく開いて天空を翔る姿に表され、全体の文様が花文の周りを早い速度で右に旋回する特異な文様である。
四側面の文様は、蓋側面に雲と唐草、身側面は上段に波行する忍冬唐草、下段に唐草と怪獣の頭を平行に描き、床脚、畳摺にも忍冬、雲、花文などを配している。
宝物の装飾画の中で、画風の古様に属する点が注目されている。文様の白い色料が黄色く見えるのは、文様の上に油がかかっているためであるが、油は全面にかかっているのではなく、文様に沿って塗られているようで、紫外線を照射すると、文様の部分だけが黄色蛍光を発する。
内部は、縦(長側方向)に仕切って二区にわけ、それぞれにうちばりを入れる。うちばりは、麻紙の心に竹縁を付け、白のあしぎぬを張る。この箱は、蓋表のはりがみに「納丁香 青木香 曾前東大寺」の墨書があることで、大仏開眼会の前に東大寺に献納されたものであることがわかる。また、内部が二区に分かれているから、丁香と青木香は分けて納めてあったもので、いまなお少量の丁香が残存する。
縦30㎝ 横45㎝ 蓋の高さ2.8㎝ 身の高さは床脚とも18.5㎝ 総高21.3㎝
朝日新聞社「正倉院宝物 中倉」より引用
61 蜜陀彩絵唐花文小櫃 より
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