59 密陀彩絵唐文花小櫃 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

59 密陀彩絵唐文花小櫃(みつださいえからはなもんのこびつ)(中倉143)
木製長方形、印籠蓋造の箱で、床脚のない櫃形である。正面に海老錠、背面に一双の肘金具と壺金具を付ける。金具はいずれも金銅製。
内外面とも下地を施し、黒漆を塗る。蓋表と四側面は、赤、白、白緑、黄の色料を用いた彩絵で、唐花文と菱型花文を交互に、しかも蓋・身で連続するように表わし、主文の花心部には、金箔を押し、全体に油をかけている。X線分析の結果、赤は水銀朱、白は白土、白緑は岩緑青であることが確認された。彩絵の文様構成は、正倉院裂の唐花文錦に多く見られる形式である。
金銅製海老錠を装着し、蓋表で海老錠金具、肘金具、壺金具が見える。内部には、紙うちばりの残片と微量の丹が残存する。
縦32㎝ 横43.8㎝ 蓋の高さ4㎝ 身の高さ15㎝ 身の立ち上がり0.8㎝ 総高19㎝
朝日新聞社「正倉院宝物 中倉」より引用
59 密陀彩絵唐文花小櫃 より
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