35 紅牙撥鏤尺 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

35 紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく) 第2号(中倉51)
天平時代に用いた一尺の物差し。象牙を赤く染め、その表面を彫って象牙地を出し、文様をあらわしている。文様のところどころに黄、緑の点彩をほどこす。寸の目盛りしかなく儀式用と考えられる。紅牙撥鏤尺/緑牙撥鏤尺は、象牙を紅または緑に染めて、その表面に文様を彫り表した物差しである。国家珍宝帳に「紅牙撥鏤尺二枚、緑牙撥鏤尺二枚」と掲げているものがこれであるが、緑牙の方は二枚とも紺染めである。どれも、寸の界を画するが、分の界はなくて、実用尺とは思えない。
唐六典に、毎年二月二日に鏤牙尺および木画紫檀尺を進めることが見えるが、これもそのような儀式用の物差しで、唐のいわゆる鏤牙尺に当たるものであろうと考えられる。
表面の上半分は区画を設けないで、蓮華にのる鳳凰、蓮華にのる鴛鴦、含綬鳥、そのまわりに飛鳥、花卉などを散らし、下半分は寸単位に五区にわけて、唐花文と蓮華にのる雙鳥を交互に配している。
裏面は区画を設けず、上から順に蓮華にのる鴛鴦、蓮華にのって首を交叉する含綬雙鳥、翼馬、含綬鳥、蓮華にのる雙鳥を刻み、空閑に花卉、蝶を散らす。側面には小花文を並べてある。また、緑青と黄で、文様のところどころに点彩を加えている。
長さ29.8cm 幅2.5cm 厚さ0.6cm
(朝日新聞社 正倉院宝物 北倉 より引用)
35 紅牙撥鏤尺 より
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