100 平螺鈿背円鏡 より

■正倉院宝物とデザインについて
正倉院宝物は一度に成立したのではなく、何段階かに分かれて成立しており、成立過程も皇室からの献上品、東大寺独自の収蔵品、皇室以外からの献上品と様々である。
もっとも根幹をなすものは、聖武天皇の七七忌に光明皇后が天皇遺愛の品々ならびに皇后に縁のあるものを東大寺大仏に献上したものである。その後も若干の宝物が光明皇后から東大寺に都合五度にわたって献上された宝物は正倉院正倉の北倉に納められ、今日に伝えられている。
光明皇后が五度にわたって東大寺大仏に献上した時に副えられていた献物帳には、①国家珍宝帳 ②種々薬帳 ③屏風花氈等帳 ④大小王真跡帳 ⑤藤原公真跡屏風帳がある。「国家珍宝帳」とは正式に「東大寺献物帳」と呼ばれるべきものであるが、この献物帳の冒頭に「太上天皇の奉為に国家の珍宝を捨して東大寺に入るる願文」との文言による。
中倉、南倉の宝物には東大寺の千手堂や東小塔などに保管されていた宝物や元々東大寺に保管されていたもの、儀式に使用されていた宝物、献上物を入れた箱類がある。
これらの宝物に使われている文様を再現したのが天平文様シリーズである。

100 平螺鈿背円鏡(ひららでんはいのえんきょう) 第11号 (北倉42)
円形の白銅鋳造鏡で鏡背を螺鈿で装飾したもの。螺鈿鏡は破損して修補したものが多いが、本鏡は旧態をとどめる例の一つである。中央に琥珀を花心として五弁花の螺鈿で飾った鈕を中心に上下左右の四方に宝相華文を表し、その先に連珠文を回し、その外にさらに小鳥のとまる大きな宝相華文を四方に配する。宝相華の花心は深赤色を呈するが、琥珀といわれ、旧態をのこす花心の一つによれば、丹地に臙脂色で小花を描き、琥珀の内側に十文字を彫って金泥を埋めたものを被せたようである。地に砕石粒を散らしているが、淡青・緑青・緑のはトルコ石、藍青色のものは青金石とみられている。螺鈿に用いられた貝殻は栄螺の老成したものといわれ、背白色であるが、部分的に桜色・緑色・紫色・赤っぼい色などに光って特有の雰囲気をかもし出している。螺細にみる黒い線彫が生き生きしている。
径27.1cm
日経新聞社「正倉院の文様」より引用
100 平螺鈿背円鏡 より
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